インバー材の加工はお任せを!切削条件や種類も徹底解説
インバー材は、熱による膨張が少なく寸法精度が求められる部品に適しています。一方で、加工が非常に難しい難削材としても知られています。この記事ではインバー材の性質をはじめ、切削、研削の解説や弊社のインバー材の加工事例のご紹介をいたします。
インバー材とは?
インバー材は、鉄に36%のニッケルを含んだ低膨張の合金です。
金属は熱を加えると膨張し、冷却すると収縮します。しかしインバー材の場合、この温度による膨張・収縮が-250℃~+200℃の温度域ではほとんど起こらず、寸法が非常に安定しています。
何故温度による膨張・収縮が発生しないかというと、温度上昇による熱膨張が、強磁性から常磁性に変態する際の収縮により相殺されるためです。
熱膨張係数は鉄が11.8に対し、インバーは2.0と約1/6となっております。このようにインバーは温度によって寸法が変化しにくいため、寸法精度が求められる使用用途に使われます。
具体的には、精密検査装置や、光学装置、ナノレベルの寸法精度が求められる使用用途などに使われます。
また、LNGタンクやガス輸送のパイプラインなどは、屋外にありますので温度差が大きく、熱膨張と収縮が発生しやすい環境下にあります。
膨張と収縮を繰り返すことで金属疲労が発生し亀裂が入るとガス漏れという大変なことになるため、LNGやガス輸送のパイプライン等にはインバーが使われています。また、インバー材は温度管理が必要ない金属とも言えるため、貯蔵タンクの内側のコーティング素材にも使われます。
精密電子部品ではナノレベルの寸法精度が求められるため、熱膨張は致命的です。そのため、インバー材が用いられます。
このように、インバー材は寸法安定性を活かし、様々な用途に利用されています。
インバー材は、日本では低膨張合金、不変鋼、鋳鋼、鍛鋼とも呼ばれます。
インバーよりもさらに低い熱膨張率が必要ならば、鉄に32%のニッケルと5%のコバルトを入れたスーパーインバーが、高温での低膨張が必要ならばコバールや42アロイが使用されます。
また、インバー材には様々な種類があります。合金にする金属の種類を変えることで、膨張率を狙い通りに変更することも可能です。
例えば、インバー材の一種、42アロイの膨張係数は、ガラスとほぼ同様です。そのため、ガラスと密着させても、熱膨張・収縮によりガラスが割れることがありません。
このように異種間の材料を密着させるバイメタルとしても、インバーは使われています。
鉄とインバーの熱膨張率比較
材料 | 組成 (wt%) | 線膨張率×10-6 |
---|---|---|
鉄(比較) | Fe 100 | 11.8 |
インバー | Fe、Ni 35 | 2 |
スーパーインバー | Fe、Ni 32、Co 4 | 0 |
ステンレスインバー | Fe、Ni 52、Co 11、Cr | 0 |
Fe-Pt合金 | Fe、Pt 25 | -30 |
Fe-Pd合金 | Fe、Pd 31 | 0 |
ちなみに、熱膨張率が低い材料は他にセラミックがありますが、インバーの方が電気伝導性や弾性を兼ね備え、溶接やはんだ加工も容易なため汎用性が非常に高いです。
また、熱膨張率が低い金属として昔はタンタルやタングステンも使われていたのですが、インバーの方がかなり安価なため、インバーが用いられるようになりました。
常温ではインバーは伸縮性、延性に富んでいるため、非常に使用しやすい金属です。
弱点としては、耐腐食性はそこまで高くないので、サビには注意が必要です。
インバー材の加工は何故難しい?切削条件も解説
インバー材は加工が難しい難削材として知られています。ニッケルの粘り気、熱伝導の低さ、工具との親和性が高いことから、難削材と呼ばれる要因がたくさんあるのです。
ただでさえ粘り気があるので、切削するときに発生する切りくずが工具に引っ付きやすいことに加え、工具との親和性も高いので、インバー材は切りくずが工具に引っ付きやすい材料なのです。
切りくずが工具に引っ付きやすいと、切削時にインバーが溶けて工具に付着してかたまり、工具の消耗が激しくなるだけでなく仕上がりも悪くなり、加工にかかる時間とコストが増大してしまいます。
そのうえ、インバーは熱伝導性が悪いため、切削するときに熱が逃げずにこもり、高温になりやすいのです。高温になると工具の劣化はもちろん、製品の変形にも繋がりやすくなってしまいます。
このように、インバー材は難削材の要因をいくつも兼ね備えているため、加工には高い技術力と熟練の経験、知識が必要です。
インバー材の切削条件やコツ
インバー材は熱伝導しにくいため、加工する際に熱が出にくくする必要があります。
そのため、切削の際は低回転で切り込みを大きくすることがコツです。
また材料に応じて適切な切削速度を選択し、効果的な工具を選択しなければなりません。
インバーの加工は熟練の知識と技術を持った加工業者に依頼することが必要です。
鬨一精機のインバー材の加工実績
材質:インバー(FN315)
サイズ:25X200X200
公差穴間ピッチ精度0.01、平面度0.001、平行度0.003で加工をしております。
インバー材の詳しい特徴と種類を解説
インバー材にも色々な種類があり、それぞれに特徴があります。
通常の低熱膨張の要求ならば、インバー、さらに低膨張要求が高ければスーパーインバー、ガラス封着用途ならば42アロイ、セラミックなどと組み合わせるならばコバールなどと、使い分けられています。
鉄、インバー、スーパーインバー、42アロイ、コバールの熱膨張率を比較すると以下のようになります。
では、各インバー材について、特徴を解説していきます。
インバー36(FN36)
鉄に36%のニッケルを混ぜた、通常のインバーです。
鉄はFe、ニッケルはNiで、36%が混ざっているためFN36、あるいはインバー36と呼ばれます。
インバーが熱で膨張しないのは、熱による膨張が、磁性の変態による収縮によって相殺されるためです。しかしこの性質は-250℃~200℃までで、それ以上の高温になるとこのバランスが崩れ、寸法安定性は損なわれます。そのため高温域で使う場合はコバールなどの別のインバー材を検討する必要があります。
逆に低温には強く、寸法精度が向上し靭性も高くなります。
インバーの36の構成比
成分 | 構成比(%) |
---|---|
Ni(ニッケル) | 35.0-37.0 |
Fe(鉄) | Bal(約65.0前後) |
Mn(マンガン) | 0.60以下 |
Co(コバルト) | 0.50以下 |
Si(ケイ素) | 0.40以下 |
Cr(クロム) | 0.25以下 |
C(炭素) | 0.20以下 |
P(リン) | 0.025以下 |
S(硫黄) | 0.025以下 |
インバー36の物理特性
項目 | 値 |
---|---|
電気抵抗率(Ω・cm) | 7.5-8.5×10^-7 |
ヤング率(GPa) | 140-150 |
剛性率(GPa) | 57 |
キュリー温度(℃) | 276.7 |
ブリネル硬度 | 160 |
破断伸び | 45 % |
レジリアンス (20°C) | 140-150(J/cm2) |
ポアソン比 (=E/2G – 1) | 0.22807 |
引張強さ(MPa) | 450-590 |
密度(g/cm-3) | 8.125 |
線膨張係数(20-90°C) | 1.2-2.0 x 10-6 K-1 |
熱伝導率 (23°C) | 13 Wm-1K-1 |
比熱容量 | 510 JKg-1K-1 |
融点 | 1426℃ |
スーパーインバー
インバーよりもさらに熱膨張率を抑えたい場合は、スーパーインバーが用いられます。スーパーインバーは、鉄にニッケル32%、コバルト4%を含んだ三種類の合金です。
熱膨張率は、インバーの2.0に対して、1.3となっており、2/3ほど体積変化を抑えられます。
スーパーインバーの物性値
項目 | 値 |
---|---|
密度(g/cm3) | 8.35 |
硬さ(Hv) A | 150 |
線膨張係数 | 1.3 |
体積抵抗率×10-7Ω・m | 8.0 |
引っ張り強さ(Mpa) | 430-520 |
伸び(%) | 40 |
キュリー温度(℃) | 230 |
ヤング率Gpa | 140 |
42アロイ
42アロイは、鉄に42%のニッケルを入れた合金です。硬質ガラスに似た熱膨張係数を持っているためガラスとくっつけても安全です。機密保護のため、ガラス封入される電子部品の電極や、ICリードフレームとして使用されています。
物理特性
項目 | 値 |
---|---|
密度(g/cm3) | 8.15 |
融点(℃) | 1430 |
電気比抵抗(μΩ・cm 20℃) | 0.635 |
熱伝導率(W/m・K) | 14.6 |
熱膨張係数(10^-6)/℃ | 30〜330℃ 4.5〜6.5 |
磁気変態点 | 330℃ |
コバール
コバールは、鉄にニッケル29%、コバルトを17%配合した合金です。熱膨張係数は、ケイ酸ガラスや、アルミナ系のセラミックに近い数値です。そのため、硬質ガラスやセラミックなどと複合して利用されます。また、広い温度範囲で、熱膨張係数が安定しています。通常のインバー材だと+200℃付近で磁性が変化するために寸法安定性が落ちてしまいますが、コバールは400℃付近まで寸法が安定します。そのため、高温域での寸法精度が必要な場合がコバールを用いると良いでしょう。
物理特性
項目 | 値 |
---|---|
密度(g/cm3) | 8.0 |
熱膨張係数(×10^-6℃) | 5.2 |
熱伝導率(W/Km) | 17 |
電気抵抗率(Ω・m) | 0.49 |
引張強さ(Kg/mm2) | 55 |
硬さ(HV1) | 160 |
ヤング率(GPa) | 159 |
降伏強さ(MPa) | 270 |
キュリー点(℃) | 435 |
比熱(J/g・K) | 0.46 |
まとめ
インバー材は熱膨張や収縮が小さいため、寸法精度が非常に良好です。また、はんだ性、導電性、靭性に優れており、安価で、非常に使い勝手の良い金属と言えるでしょう。
しかし、インバー材は難削材であり加工が難しいため、加工には熟練の技術と経験が必要です。弊社鬨一精機はインバー材の加工も熟練しております、是非お任せください。
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